婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜

婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜

last updateHuling Na-update : 2026-02-18
By:  suzukiOngoing
Language: Japanese
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侯爵家のティー(テイワズ)は、五人の兄に囲まれ大切に育てられてきた。 しかし、婚約者から突然の婚約破棄。 その日父親から家族の真実が告白される。 「この家には血の繋がらない兄がいる」 その日から始まる兄たちからの熱烈なアプローチ! 家族の絆を信じたい気持ちと、芽生えてしまった新たな感情の間で心が揺れる。 長男*ヘルフィ 銀髪赤目 22歳 「俺様が誰より甘い想いをさせてやる」 二男*ロタ 黒髪青目眼鏡 21歳 「自分があなたを守ります」 三男*エイル 金髪緑目 19歳 画家 「あはは。俺の本気を見せてあげよう」 四男*ルフトクス 茶髪金目 18歳 「おれと一緒に逃げようか?」 五男*フォルティ 紫髪赤目 17歳 「僕があなたをエスコートします」

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Kabanata 1

プロローグ-婚約破棄

「あなたの旦那、浮気してるわよ」

親友からのメッセージを受け取った時、瀬名真依(せな まい)(旧姓:氷川(ひかわ))はちょうど排卵誘発剤の注射を終え、腹部の刺すような痛みに耐えながら診察室の待合室のベンチにもたれかかっていた。

彼女は黒髪に雪のように白い肌、血の気のない卵型の顔立ちをしていたが、その美貌の持つインパクトは少しも衰えず、通りすがりの人々は何度も振り返っていた。

真依は深呼吸をし、震える手でメッセージに添付されていた写真をタップして開いた。

そこに写っていたのは、瀬名尚吾(せな しょうご)がピンク色のオーダーメイドのプリンセスドレスを着た女性を抱きかかえ、ホテルから出てくるところだった。

普段は冷たい印象のある尚吾が、その瞬間だけは信じられないほど優しい表情をしていた。

その女性のことも彼女は知っていた。

尚吾の初恋の相手、藤咲玲奈(ふじさき れいな)だ。

我に返った真依は、電話帳から尚吾の番号を探し出し電話をかけた。長い呼び出し音の後、ようやく電話の向こうから男の冷ややかな声が聞こえた。「何の用だ?」

「今夜は帰ってくるの?」真依は本当は、帰ってこれるのと聞きたかった。

しかし、明らかに彼女の電話は相手の邪魔をしてしまったようだった。数秒の沈黙の後、尚吾は苛立ちを隠せない声で言った。「そんなに急ぐことか?」

真依は彼の冷たい口調に傷つき、思わず涙ぐみそうになったが、声には悲しみを一切出さなかった。

「今日が何の日か忘れたの?」

彼らは極秘結婚して三年、月に一度の夫婦生活を除けば、二人が顔を合わせることはほとんどなかった。

今日は彼らの結婚記念日であり、彼が家に帰るはずの日だった。

先月、ベッドの中で彼は必ず一緒に過ごすと約束したはずだった。

尚吾は彼女の言葉を遮り、苛立ち気味に言った。「後で帰る。心配するな」

そう言って、彼は一方的に電話を切った。

「プープー」という音を聞きながら、真依の心は一瞬にしてどん底に突き落とされたような気がした。

しばらくの間、顔を上げて気持ちを落ち着かせ、深呼吸を繰り返した後、親友の朝倉紗月(あさくら さつき)に電話をかけ、迎えに来てもらうことにした。

十分後、病院の廊下に慌ただしい足音が響いた。女性は、肩につかない長さに切りそろえられたクールなブルーのストレートヘアで、シルバーのメッシュが歩くたびに揺れ、とてもスタイリッシュだった。

周囲からの驚きの視線にも、紗月は全く気にする様子もなく、太い眉をひそめて真依の元へまっすぐに向かった。

真依の青白い顔を見て、彼女は心配そうに、しかし抑えきれない苛立ちを込めて低い声で言った。「彼があんなことしといて、排卵誘発剤なんか打って何になるのよ?」

彼女はうつむいたまま、何も言わなかった。

彼女と尚吾の結婚は、そもそも無理やり成立したものだった。尚吾の祖父が強引に二人をくっつけようとしたのだ。

結婚の話が持ち上がった時、彼女は断らなかった。それどころか、内心密かに喜んでさえいた。――彼女が尚吾のことを長年想い続けていたことを、誰も知らなかったのだ。

結婚してから、彼女は尚吾に玲奈という初恋の相手がいることを知った。尚吾の祖父は彼女の家柄を気に入らず、真依を当て馬にしたのだった。尚吾は彼女の存在を認めることを恥じていたため、この三年間、彼らは極秘結婚していた。

真依もそのことは気にしていなかった。いつか尚吾の心を温め、心の中の女性を忘れさせ、自分としっかりと向き合ってくれると信じていた。

今、玲奈が現れて、自分がどれほど愚かだったかを思い知らされた。

家に着くと、真依はシャワーを浴びた。ベッドの上に置かれたセクシーな下着を見て、胸が締め付けられるような思いがした。

彼女は自分に言い聞かせた。これが最後、自分にとっても尚吾にとっても、これが最後のチャンスだと。

夜中、突然、腰を冷たい水気を帯びた大きな手に掴まれた。男の熱い息が耳元にかかり、彼女を燃え上がらせるようだった。

真依は驚いて目を覚まし、本能的に足を蹴り上げた。

尚吾は素早く彼女の足首を掴んで左右に押し広げ、覆いかぶさるようにして彼女の上に乗り、極めて際どい体勢で彼女の両足の間に位置した。

真依の潤んだ瞳にはまだ眠気が残っていたが、すぐに我に返り、腕を伸ばして男の首に絡みつくと、首を反らせて身体を密着させた。

男は彼女の服に視線を走らせ、熱い息を吐いた。「俺を帰らせたのは、このためか?」

真依の動きが一瞬止まったが、すぐに笑顔を作った。「そうよ、新しい体位を研究したの」

彼らの関係では、いつも真依が積極的だった。

排卵誘発剤、滋養強壮のスープ、そして体の関係のテクニック……妊娠できるなら、彼女は何でも試すつもりだった。

それが全て子供を作るためだと考えると、尚吾は興ざめした様子で彼女を突き放し、ベッドサイドテーブルからウェットティッシュを取り出すと、ゆっくりと手を拭き始めた。

彼は丁寧に、まるで汚いものでも触ったかのように、指の一本一本、関節の隅々まで拭き、終わるとティッシュをゴミ箱に放り投げ、冷たい声で問い詰めた。「こんなことのために、お前は玲奈を尾行させたのか?」

真依は一瞬何のことか分からなかったが、すぐに彼が言っているのは二人の写真を暴露したゴシップ記者のことだと気づいた。

疑問形ではあったが、彼の口調は確信に満ちていた。

彼は恋人をかばうために帰ってきたのだ。

真依の体温は、まるで氷水を浴びせられたかのように、一瞬にして冷え切った。

しばらくの沈黙の後、彼女は身を起こし、寝間着を適当に羽織った。艶やかな顔には冷ややかな表情が浮かび、さっきまで情熱的に迫ってきた小悪魔のような彼女とは、まるで別人だった。

そして、遠慮なく言い放った。「そうよ。あなたは元カノと曖昧な関係を続けながら、プライバシーは守りたいって言うのね。私が警察に通報しなかっただけでも感謝してほしいわ!」

尚吾はわずかに目を見開いた。いつも従順で物分かりの良い真依しか知らなかったため、彼女がこれほど口が達者だとは思いもしなかった。

さすがは本性を隠していただけある。

尚吾は額の青筋を浮き立たせ、彼女を突き放した。「お前のその汚らわしい考えを玲奈に押し付けるな。彼女はお前とは違う」

尚吾の目には、彼女は常に手段を選ばない、汚れた存在であり、玲奈は永遠に純粋で汚れのない存在として映っていた。

彼に三年も費やしたというのに、玲奈の視線一つにも敵わないのだ。

真依は、こんな男を長年好きだった自分が本当に馬鹿だったと思った。

こんなクズ男、若い頃の私なら一発殴って終わりよ!

ずっと彼を宝物のように思っていたなんて。

短い沈黙の後、真依は顎を上げ、さりげなく眉をひそめた。「尚吾、私たち、離婚しましょう」
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プロローグ-婚約破棄
「テイワズ・オスカリウス」 呼ばれた名前に振り返った。 今日は社交界デビュー(デビュタント)の日で、名を呼ばれた金髪のドレスを着た女性は、今まさに今から婚約者であるこの男と踊るところだったのだ。 テイワズ・オスカリウス。 侯爵家の子女の十六歳。長い金髪と青い目が、シャンデリアの光で輝いた。 豪奢で華やかな王宮の広間。 賑やかなその場で、見知った声の異変を感じ、伸ばそうとした手を止める。 名前が聞こえて反応した家族の視線を感じた。が、それよりはこの目の前にいる婚約者の硬い面持ちの方が気になる。 婚約者のダグは彼女と──テイワズと同じ金髪碧眼の男だった。 今日のテイワズのドレスは、彼が青い服を纏うと聞いていたから、それに合わせた淡い青のドレスを選んだ。 なのに彼は、緑を基調とした正装をしてた。 (おかしい) 並べば一枚の絵画のようだと讃えられるほどお似合いだった婚約者だった。手の届く距離にいる。 なのに。 もうお互い違う額装の中にいるような違和感を、テイワズは感じた。 「ダグ……?」 「気安く呼ばないでくれ」 同じ色の青い目を信じて名を呼べば、ピシャリと冷たく放たれた。ダグは一歩引いて、目の前のテイワズを見つめた。 そして、高らかに、告げた。 「婚約を破棄にしよう、オスカリウス家のテイワズ嬢。僕ときみは、もう婚約者ではない」 周りがざわついた。 どうしよう、足元がふらつく。 立場を揺らがす出来事だった。 (……信じたくない) それでもテイワズが立てるのは、今日のために装い仕立てたドレスのおがげであり、なにより女として強靭に鍛えた矜持のおかげだった。 「他に愛する人ができたんだ」 泣くな、と拳を握る。 拳に爪が食い込む。泣かないように、心の痛みを誤魔化す。 ──泣いたら。 「はっ! テメェは俺様の妹に相応しくねぇよ」 ──泣いたら、大騒ぎになってしまう。 後ろから硬い体に引き寄せられた。 背中に正装の上からでもわかる硬い胸板があたって、目の端に銀色の光が輝いた。金髪のテイワズを抱き寄せる銀髪は、赤い目の持ち主。 犬歯を見せて敵意を露わに細い肩を抱き寄せた、彼女の兄。 「ヘルフィお兄様」 肩を抱き寄せた兄の手の力の強さに、大事になってしまったな、と
Magbasa pa
婚約破棄の裏側で
「この馬鹿息子!」 家に着いた途端に、ダグは父親から平手打ちをされる。 あれからダンス会場では、一人の女性に不名誉を被せたことを糾弾されこそはしなかった。 それは新しい婚約者が──恋人が──王家の一人娘、姫だからということだろう。「何もわざわざ婚約者がいた男を選ばなくてもねえ」 それでも聞こえる中に多少の悪口はあった。それはわかる。「王家の振る舞いが悪いから最近天候が荒れたりするんじゃない?」 とんでもない風評被害だ。 それに加えて、帰宅したら今度は父親の平手打ちだ。 ダグは頬を抑えて父親を睨む。その視線を受けて父親が声を上げた。「あの娘はな、魔力なしなんだぞ!」「なんだよ! わかってるじゃないか! なら無価値だろう!」 痛む頬を抑えながら言い返せば、ダグの父親にしては些か年のいった初老の父親は深く溜息をついて頭を抑えた。「そうじゃないんだ……あの家で火と水と大地に守られるあの娘が……古い王に強く求められそれ故になかったものにされた素養を持っているかもしれないのだ……」 呟きはダグには聞こえない。聞こえても理解ができない。 何を言ってるんだ? この父親は。「だからお前をあの家の娘と婚約させたのに! 親に黙って婚約破棄……しかも新しい婚約者に、姫君……!?」「いいことだろう! 王家の仲間入りだ! 落ちぶれ貴族から抜け出せるんだ!」「王家に対してこちらから断るなんてできない……ああ!」 自分の言葉に答えず、頭を抱えて嘆く父親にダグはむっとして言い返す。「なんだよ、断るなんておかしいだろ! 喜ぶべきだろう! 息子はよくやったって抱きしめこそすれ叩かれる理由はないはずだ!」「いいやお前は一世一代のチャンスを無駄にした」 テイワズ・オスカリウスとの婚約はたしかに愛の上だった。それは過度に厳しい親へ応えたいという愛であったが。けれどダグにとっては愛のためなのは嘘ではなかった。 ──ひたむきな姿を見ていました。厳しいお父様のもとで優秀になり…………いつも、がんばっていますね。 そんなことをたまた行った美術館で邂逅した姫に言われた。 そんなことを言われて、父親が取り付けたオスカリウス家のテイワズより、姫の方がダグ自身を愛してくれていると思った。(なにより父も喜んでくださると思ったのに……!) それに加えて、テイワズの家の兄たち
Magbasa pa
婚約破棄の翌朝
「おはよう、ティー。……いい朝だね」 布団の中で目覚めると、見知った茶髪。半開きの金色の目に、目を大きく見開いた自分が映って、テイワズは悲鳴をあげた。「る、ルフお兄様ー!?」 ふわあ、とルフトクスは大きなあくびをして、テイワズを見て満足げに目を細めた。 叫び声がこだましてすぐに、部屋の扉が勢いよく開く。「どうしました!?」「どうしましたか!?」 同時に飛び込んできた色は二色。黒髪のロタと、紫髪のフォルティだった。「おはよう、ロタ兄さん、フォル……ふわあ、あ……」「なんでお前が同じベッドで寝てんだ!」「ロタ兄さん、朝から怒りすぎー。いつもの口調が抜けてるよー」 ルフは面白がるように言ってそれから、布団を被り直した。……赤くなって固まったままのテイワズも入っている同じ布団を。「ルフトクス!」「なんで布団の中戻ってるんですか! 出てきてください!」 ロタとフォルティが布団をひっくり返すと、丸くなったルフトクスはまだ眠りを惜しそうに目を細めた。 固まっていた真隣のテイワズが、おずおずと口を開く。「あの、ルフお兄様……」「なあにぃ? おれの可愛いティー」 テイワズの囁きに、甘く、とろけそうな──瞳と同じ蜂蜜のような響きで答えた。 深い蜂蜜の中に捉えられて、テイワズはまた頬を赤くする。なんで。 なんで、こんなに、甘く。 今までこんなこと、なかったのに。 今までよりはるかに甘ったるい、知らなかった声と、溢れたばかりの朝日に煌めく瞳。 動揺した。 目覚めて世界が変わってしまったのを知った。 婚約破棄と、突然の家族の真実。「……ドキドキした?」 微笑まれて、胸が高鳴る。 なんで。この人に。兄なのに。 見つめ合って蜂蜜は琥珀になりうると知る。 テイワズが胸元を抑えたところで、ロタがたまらず舌打ちをした。「いい加減に出ろ! ルフトクス!」 ロタがルフトクスの首元を掴んで、乱暴にベッドから引き摺り落とした。「いててー……乱暴だなあ」「あなたが悪いんですよ! ルフ兄様!」 真面目で規則正しいフォルティは、寝巻きのテイワズやルフトクスと反した外用の服を既に着ていた。 規則正しい生活を心がけているロタも、既に寝巻きではないが、髪型のセットがまだ甘い。髪を抑えて乱暴に整えて、ルフトクスを責めるようにいった。「なんでこんなふ
Magbasa pa
五男・フォルティ
「ちょっと部屋にいます」 食事を終えてすぐ、テイワズは四人の兄にそう言って部屋に下がった。(一人になりたい。一人で考えたい) 一人になった部屋で、自分の呼吸の音だけを聞けば早鐘を打っていた鼓動が少し落ち着いた。(お兄様たちは、本気なの?) 本気だとわかっている。 だって、冗談を言うような兄たちではなかった。 今までずっと、大切にされてきた。 物心つく時には五人の兄とずっと一緒にいた。 それより幼い赤子の時の記憶なぞ朧げだが、自分の原初の記憶は、間違いなくこの家と兄たちだ。(それが、まさか揺らぐなんて) ベッドに寝転び考える。寝転んだ羽毛の中には、もう誰との温もりは残っていなかった。(……|婚約破棄《ダグとのこと》よりもショックかもしれない) どうすればいいのかわからない。 身の振り方が、この身の置き場がわからない。 途方に暮れる気持ちになる。(一人になりたくない) 一人になりたかったのに、こうして一人の部屋にいると考えてしまう。 ベッドに身も沈め込むテイワズの耳に、優しいノックの音が届いた。「僕です」 慌てて身を起こして、返事をする。「フォルお兄様」 テイワズがすぐに扉を開くと、フォルティは部屋の外に優しく微笑んで立っていた。「気分転換に、観劇でも行きませんか? ……身支度ができたら、降りてきてください。下で馬車を用意しておきます」 有無を言わさない強引さは、彼にしては珍しい。「お兄様方はいません」 え、と驚くテイワズに、フォルティは赤い目を細めていたずらっぽく笑った。「僕と二人っきりです」* 宝石のような紫の髪に赤い目。魔力は長男と同じ火。 五男、フォルティ。略称はフォル。テイワズより一つ年上の十七歳。 魔術の成績がずば抜けており、飛び級してルフトクスと同じ最上級生になっている。 剣の腕も悪くはないが、兄たちほどではない。それもただ兄たちが規格外なだけで上位の成績だ。 フォルティは魔術の天才と呼ばれて将来を嘱望されている。 それは魔術学園に入学した年だった。 魔術の適性ごとにされたクラス分けの授業。 火の魔術は触れたものを燃やすことができる。魔術は接触が基本だ。血の通う体で触れなければ魔術は発動しない。 通常着火する火の大きさは指の先ほどのことが多い。いうなれば指でつけるマッチだ。 火の
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その日の夜
 テイワズが眠ってから、食事をした部屋の明かりが再び灯った。 ヘルフィが指先から炎を出し蝋燭に火をつける。その後ろから部屋に入った三人は、部屋の中の椅子にそれぞれ座る。「ティーももう寝たみたいですね」 眼鏡を持ち上げて、ロタが言った。「ロタ兄さん、覗いたのー?」「あなたみたいに勝手に部屋に入るわけないでしょう。部屋の前で耳を澄ませただけですよ」 はいはーいと雑に返事をしたルフトクスに、ロタは言葉を続ける。「しかしルフもしばらく学校を休んで平気なんですか? フォルはともかく」「なんでフォルはともかくなのさあー」「僕ほどの優等生は大丈夫に決まってるからですよ」 ヘルティと同じように、指先から灯した火で燭台に灯りをつけてからフォルティが椅子に座った。 フォルティは飛び級が認めているほど魔力が優れているという点だけでなく、真面目な態度により教師から好感度が高い。ルフトクスは成績はいいが、学校では寝ていることが多く、教師からは微妙に距離を取られていた。「はいはい。ティーに辛いこと思い出させないように遊びに連れて行く作戦を決行したら戻りますよー」 ルフトクスもフォルティも、テイワズをそばで励ましたくて──心配で数日学校を休むことにしていた。 そんな三人の様子を見て、ヘルティが言う。「ロタこそ、今日は仕事がろくに手につかなかっただろーが」「うっ」 言われたロタは言葉に詰まった。 ヘルフィが犬歯を見せて追撃する。「弟たち(ルフとフォル)に先手を取られた……どこに連れて行こうかな……って呟いてただろテメェ」「ヘルフィ、そういうことは言わないでください!」 二人の長兄の様子を見て、ルフトクスが笑う。「はっはーん、やっぱり兄さんも内心、婚約破棄が──……血の繋がりがないかもしれなくて、自分にも可能性ができたことが嬉しいんだー?」「うるさいですよ」「うっせぇぞ、ルフ」 白銀の兄と宵闇の兄に睨まれて、はいはーいと軽く肩を竦める。 フォルティが優等生らしく小さく手を挙げる。「ヘルフィ兄様、エイル兄様にはこのことは伝えたのですか?」 フォルティが言った名前は、この場にいない三男の名前。このこととは、婚約破棄のことと血縁のこと。「まだ伝えてねぇ」 ヘルフィは額にシワを寄せながら答える。「そもそも、あの日来いよって連絡にさえ返事はねぇし
Magbasa pa
二男・ロタ-1
 今日の朝は目覚めたら誰もいなかった。  当たり前のことにほっと安心の溜息を吐いて、テイワズは起き上がる。 身支度を整えて朝食を食べに行くと、食卓にはフォルティだけだった。 「ティー。おはようございます」 紫の髪が朝日を浴びて煌めく。優しく細められる赤い色の瞳。「おはようございます、お兄様。昨日は楽しかった、です」「いいえ。むしろあなたと二人きりで出かけられて……僕の方が幸せでしたよ」    ──予想以上の返しだった。アルバムと経験則にはない返事だった。  柔らかな笑顔になんと返せばいいのかわからない。兄なのに兄らしくない。  それでも不快感はなくて、これは女としての照れだ。 (なんで、私)  固まっているところに、軽快な声が入ってきた。「あー、抜け駆けしてるー」 「抜け駆けって……失礼ですね!」  指を指されてフォルティの視線が移ったので、テイワズも視線をルフトクスに向ける。「ルフ兄様、おはようございます」 「おはよう、ティー」  テイワズに歩み寄って、甘く微笑んだ。 「今日も可愛いね」 布団に入られた時並みの衝撃だった。  甘い声と笑顔に、テイワズがまた動けなくなる。  それを見たフォルティは慌てた。 「なっ! ……ティー、僕もあなたを可愛いと──」 「騒がしいですね、朝から」  遮った声は、ロタの声だった。 「おはようございます、ティー」  テイワズに顔を向けて、 眼鏡の奥の瞳を柔らかく細める。 「……よく眠れましたか?」「は、はい」  今までと特に変わらない言葉だ。なのに眼差しが熱い気がして少し狼狽えてしまった。 「それはよかった」  そんなテイワズに、ロタは微笑んで長い金髪を撫でた。  テイワズの心臓が跳ねる。 (ろ、ロタお兄様?)「おー……」  部屋に新たに低い声が入ってきて、ロタはその髪を手から離した。「くあ、あ……」  欠伸をしながら現れたのはヘルフィだった。  眼光鋭いいつもの赤目に、光がないのは毎朝のことだ。「おはようございます、お兄様」 現れたヘルフィにテイワズが挨拶をすると、ルフトクスが兄の様子を見て薄く笑った。「いつもながら眠そうだねぇ……釣られちゃうよー、ふわあ、あ……」 言葉通りに、そのヘルフィ
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回想・花畑の中で-三男・エイル
「家を出るって本当ですか?」 家の庭に、お気に入りの場所があるのを知っていた。 庭師が丹念に育てた花畑の中で、男性にしては長めの金髪が大地に広がっている。「ん? ああ、聞いたの?」 緑の目は若草と同じ色。その色にテイワズを映して、エイル(三男)は頷いた。「本当だよ」「どうして」 テイワズの質問に、笑って答える。太陽の光を惜しげなく浴びる金髪が揺れて光った。「どうして……って、はは。もう学校も終わるし、当たり前でしょ」 エイルは魔術学校を卒業する十八歳で、テイワズは十五歳。そろそろテイワズにも婚約を、と父親が社交の場で言い出した頃だった。「けど、ヘルフィお兄様とロタお兄様は学校を卒業しても家にいますよ」「あの二人は後継第一候補とその補佐でしょ。家督候補に三人もいらないよ」「けど、」「ルフとフォルは真面目だし宮廷魔術師とか、まともな仕事につくだろうけど、俺は違うの、俺は」 食い下がったテイワズは容易く言い伏せられて、伏せた目とともに次の言葉を探す。 その顔から目を逸らしてエイルが続けた。「俺はねえ、自由に絵を描きたいの。のーんびりしたいの」「…………お兄様」 エイルがそれを言ったのは、テイワズが寝静まってからだったらしい。『俺、そろそろ家を出るよ』 家にいた父親からそれを聞いて、テイワズは庭に飛び出したのだった。 エイルが学校をサボって家にいるときは、おおよそ庭の花畑の中にいるのをテイワズはよく知ったいた。「いなくなって、しまうんですか」「やめてよ」 それははっきりした声だった。「そんな風に、俺を呼び止めないで、ティー」「だって──…………え?」 お兄様。 そう呟いた声が、出ていたかわからない。 後頭部の柔らかな感触は、咲き誇っていた花々のものだと気が付いた。 景色は変わって青空が広がっていて──それを背景に優男然としたエイルの顔があった。「ティー」 倒れた衝撃に花びらが舞い落ちるその中で、どうしてそんな、痛々しい顔をしているのかわからなかった。「お兄、さま?」 組み伏せられた、と両手首の熱でやっとわかった。テイワズの髪は大地に広げられて、その上にエイルが覆い被さっていた。 腕に込められた感じたことのない力強さは、男だと実感させるためのもののようだった。 自分よりゆうに背の高い男に影を落とされてい
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二男・ロタ-2
「お手柄だったじゃねぇか、ロタ」 夕食を取りながら、ヘルフィが声をかけた。 帰宅したテイワズとロタは、リビングに集まりいつものように兄妹五人で食事をしている。「ああ、昼間の件ですか」 ロタが答えると、ルフトクスとフォルティも食器から顔を上げた。 なんなの、と二人が聞くと、ヘルフィが仕事中に自警団から話を聞いたと昼間の出来事を説明する。「へえー、すごいじゃん、ロタ兄さん」「素晴らしいですね!」 テイワズも手を止めた。「本当に、とてもご立派でした、ロタお兄様」「ただなあ」 暖かな空気の温度を下げたのは、ヘルフィの冷たい声。「ちょっと乱暴だったな。怪我してたぞ、あの物盗り」「…………それは、すみませんでした」 場の空気が一変する。 白銀が刺す。赤い目の視線は、手元。「物取りとはいえ本来なら守られるべき民だ、ただの──」 その低い声に、誰も食器の音で遮らない。「不作で困窮していた、ただの一人の親父だった」「けれど」 重くなった空気を震わせたのは、テイワズの声だった。 八つの鮮やかな瞳が、テイワズを映す。「バッグを取られたご婦人も、膝をついていましたし何より……何より、バッグを盛り返してもらうと喜んでいらっしゃいました」 テイワズは知っている。 兄たちが自分を大事にしてくれていることを。 だから言える。(思ってることを言っていいって、言ってくれる兄だから) だから言った。 ──ロタの僅かに落ちた肩を、少しでも上げたくて。「……そうだな」 ヘルフィの声の温度が、幾分か上がったような気がした。「わりぃな、ロタ。俺様としたことが、嫌な言い方をしちまった」「確かにその通りです」 食卓に再び食器の音が戻る。「気を付けます。……ティーも、怖かったですよね」 伏せられた青い目を見据えて、ティーはいいえと首を振った。「かっこよかったですよ、お兄様」 その言葉に食卓はまた騒がしくなったが、ヘルフィだけは僅かに視線を下げたままだった。 食事を終えて、ベッドに入る前に窓のカーテンを閉めようとした時、外に人影があることに気がついた。 月明かりが暴くその髪の色は、黒。 広い庭を撫でる風にその髪が揺れていた。 寂しそうに見えたと言ったら傲慢だろうか。 テイワズの足が自然と庭に向かった。 テイワズが外に出ると、ちょうど
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その日の夜
 庭が見える窓のカーテンを、音を立てて閉める。「兄さん」 カーテンを閉めたヘルフィは、後ろからかけられた声に答える。「ルフか、こんな夜遅くまでご苦労だな」 兄さんもね、とルフトクスは肩をすくめた。 四男、ルフトクスは秀才である。 剣も魔術も兄弟間では特別優れているとは言えないが、学校など外の世界では十二分に優れていた。 魔術の実践も、座学も成績自体は優秀で、『三男でどうなることかと思ったが、さすがオスカリウス家の男子だ』と学校では高い評価を受けてている。 それは優れたカリスマ性のある長男と、随一の剣術の腕を持つ二番の兄。そして三番目の兄の看板に泥を塗らないためだった。 生まれた時から比べられ、気がつけば劣るまいと努力が染み付いていた。 睡眠を削って腕を磨き本を捲った。 その努力を、ヘルフィはもちろん家族皆が知っていた。 本人は空が暗くなって闇に隠れるように学ぶが、部屋の隙間から漏れ出る光のその努力に気付いていた。 それでも外では飄々として努力など知らないとばかりの振る舞いをしていた。──睡眠不足でいつも眠い、惰眠が好きな嫌味な天才と呼ばれても、本人が言わないから家族も言わなかった。 |紅茶を飲んで《カフェインをとって》もいつも眠いほど、努力をしてることを。(おれは天才なんかじゃないのにねえ) この家で魔術の真の天才は──五男、フォルティだった。 学校でのフォルティへの評価は『真面目な秀才』 本人が素直で勤勉。それを隠していないから、優秀な魔術と剣の腕は努力によるものだと思われていた。 まったくそんなことはない。 彼は生活態度さえも真面目だ。睡眠と食事を尊び、ただそれだけ。 入学してすぐ、誰もできない火の魔術──火の鳥を作って飛ばすほどの魔術の腕は天才的だった。 実直な性格を見た教師陣は『たくさん努力したのだろう』とフォルティを評価した。 彼は努力してない。やれることをやっただけだ。 男兄弟の中では末っ子らしい奔放さと愛嬌で、睡眠不足になるほどの努力も知らずに魔術の腕を評価された。 ルフトクスは天才と称されるがそれは努力に裏付けられた秀才で、フォルティは秀才と称されるが努力をする時間もないほどよく眠る天才。 家の中での実際のところと、世間の評価は正反対だった。 そんなルフトクスを、ヘルフィは信頼していた。「……
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四男・ルフトクス
「ふわあー、おはよー」 テイワズがロタとフォルティと朝食を食べていると、欠伸をしながらルフトクスが入ってきた。「おはようございます」「ルフ兄様、おはようございます」 二人の返事を聞いて、ルフトクスが音を立てて椅子を引いて座る。 それから頬杖をついて、黄金色の目を細める。「おはよう、ティー。……今日も可愛いねぇ」 ──今までだって、可愛い可愛い言われてはいた。別に恥じらうことじゃない。 なのに、どうして。(言い方が今までと違うから) だからどうしても、恥ずかしくなってしまう。「ルフ兄様またあなたは……!」「へっへーん、言ったもの勝ちー」 淹れた紅茶はストレート。ルフトクスは得意げに微笑んで啜る。 新しく部屋に入ってきた足音に、テイワズとロタが早く気がついた。「……ヘルフィ、おはようございます」「おはようございます、お兄様」 乱れた銀髪をかきながら現れたのは、開ききらない赤目のヘルフィだった。「おう、おはよう」 座ったヘルフィに、ルフトクスとフォルティも挨拶をする。 ヘルフィは紅茶に山ほど砂糖を入れて、ロタが今日の仕事について話しかける。「今日は施療院に呼ばれていましたね」 ヘルフィが紅茶を飲んだヘルフィが答える。「ああ。古いから改修したいってことだったな」 そんな二人の様子を見て、ルフトクスはフォルティに話しかけた。「フォルは? 今日は?」「えーっと」 フォルティが横目でテイワズを見た。 不意に赤い目と目が合って、テイワズの手が止まる。「……どうしましょうかね」 自分のために学校を休んでいると、テイワズは知っている。「そろそろ行きなよ、学校」 だから言った言葉に、むむう、とフォルティは唸った。「心配かけたよね、私、大丈夫だから」 そう言えば、しばらく間を開けてフォルティが答えた。「じゃあ、まあ、そろそろ僕も行きましょうかね……」 その様子を見て、ルフトクスがにっこりと笑った。「じゃあ、ティーは今日一日おれと過ごそっかー!」「あーっ! ずるいですよルフ兄様! あなたは行かないんですか!?」「おれは明日からにするー」 噛みついたフォルティに、ルフトクスはふふんと鼻を鳴らす。「ねえ、ティー、今日は何しよっかー?」「えええ……」 その黄金の瞳の強い光に、テイワズは学校に行ったら? なんて言
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